へこ岩
祓川はその昔、和気清麻呂が都から宇佐神宮へ行く途中、身を清めてお祓いをしたという言い伝えから名づけられたそうだ。この川は、太古から流域の人々の生活の中心を流れつづけてきた神聖な川である
ある夏の、ジリジリと太陽が照りつける昼下がりのこと、伊良原(京都郡犀川町※)から帆柱へ向かう山道を若い男女が一組、汗だくになって歩いていた。ぬぐってもぬぐっても、噴き出る汗。暑くてたまらない。二人はあまりの暑さにがまんできず、とうとう道の下の谷川へかけ降りていった。着ている物を全部脱ぎ捨て、丸裸で川の中に飛び込んだ。冷たい水が、ほてった体に気持よく、まるで生きかえるようなここちよさ。汗とほこりで汚れきった二人の体は、澄んだ水の中を泳ぎ回るうちに、きれいに洗い清められていった。
それからしばらく、時のたつのも忘れ、夢中ではしゃぎつづけたあと、ふと思いつき、汗まみれの腰のものをついでに洗い、川の中の大きな岩に干した。泳ぎ疲れた二人は、洗たく物が乾くまでの間、一眠りしようと、川岸の草原に寝ころぶが早いか、そのままぐっすり眠りこんでしまった。
さて、どのくらい時が過ぎただろう。眠りからさめた二人が、帰ろうとして岩の上の洗たく物に手をかけたところ、どうしたことか、下帯も腰巻もピッタリ岩に張り着いたままビクともしないのである。びっくりぎょうてん、大あわてで二人は懸命にはがす努力をしたが、無駄であったという。
二人が水あびをした谷川は、祓川の上流で、ちょうどその日は旧暦の七月十四日。下流では今井祇園祭りが行われていたという。
若いカップルの行動が水をけがしたために、神の怒りにふれたのだろうといわれている。この岩は現存し、その時の下帯と腰巻の型が残っているところから、村人の間では「へこ岩」と呼ばれている。
「へこ岩」の伝説は、清く澄んだ水の流れがけがされることなく、永遠に流れつづけることを願う里人の心情を物語る。
出典:京築民話の会 『ものがたり京築』116頁〔文・吉留〕(葦書房有限会社、1984年)
※出典の表記のままとさせていただきましたが現在は(みやこ町犀川伊良原)となります。
※へこ・・・・「ふんどし」
※馬落し・・・以前は長細い谷道で、馬が積荷(材木)ごと崖下に滑り落ちるような急な登り坂であったため、険しさを表現する地名として「馬落し」と名付けられたといわれています。
国道496号線に目印となる看板があります。
へこ岩の右の細長い黒ずみが「へこ」、左(中央部)の黒いが部分が「腰巻」の張り付いたあとと言われています。
所在地 | みやこ町犀川伊良原 |
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アクセス(車) | 東九州自動車道「みやこ豊津IC」より、 車で約30分。 国道496号線沿い、おこぼう庵から南に850m、馬おとし橋から北に150m。 |
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